近年「企業の内部留保で従業員の賃上げをすべき」という主張を見かけますが、それは法律上も会計上もできません。その理由は、主に次の3点です。

①内部留保は資本金と同じで株主の財産
②内部留保の分だけ現金預金があるわけではない
③利益と現金預金、ストック(貸借)とフロー(損益)は違う

 ここでは、内部留保とは「企業の貸借対照表の純資産の部に計上されている繰越利益剰余金や利益処分による積立金等」とします。

 企業の利益は株主のものであり、本来は配当として株主に還元すべきものです。しかし、それでは事業を拡大できないので、企業内部に留保して元手とし土地建物や商品の購入等に使います。これは、利益を株主にいったん配当し、株主が受け取った配当金を企業にそのまま再出資したのと同じなので、結局、内部留保は資本金と同じで株主のものです。内部留保とは、正確には「株主配当の内部留保」で、企業内部にある現金預金の意味ではありません。

 また、黒字倒産という言葉があるように、利益と現金預金は別です。利益は期間損益計算上の抽象的な数字で、会計処理によりいくらでも数字が変わります。対して現金預金は貨幣の裏付けのある具体的な数字で、決して変わりません。内部留保とは企業の過去の利益の積み重ねなので、利益と同様に抽象的な数字です。理論上は内部留保が100億円あっても、現金預金が1円もない企業も存在します。通常は、内部留保の大半は土地建物など固定資産への設備投資に使われています。内部留保は決して「使われずに眠っているお金」ではありません。銀行からの借入金と同様、資金の調達源泉の1つです。

 また、内部留保はストック(貸借科目)で、給与はフロー(損益科目)です。企業のすべての経済活動は複式簿記の仕訳として書き記せますが、「内部留保で給与を払う」ことを仕訳では表現できません。

 仮に現金預金や余剰資産が多くあっても、それで賃上げできるとは限りません。現金預金をどの程度にするかは企業経営の安全性や資金繰りなどで決まります。現金預金が多くあるからと給与を増やせば、赤字転落して経営が悪化し倒産もありえます。給与を上げるかどうかは経営上の判断、フローで決まるものであり、現金預金や内部留保などストックの多い少ないではありません。内部留保は打ち出の小槌ではなく、給与と関係付けて議論するものではありません。